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東京地方裁判所 昭和32年(ワ)3455号 判決

帝都信用金庫

事実

原告帝都信用金庫は、被告宮本硝子株式会社が訴外神山浩人を受取人として振り出した金額三十四万五千円の約束手形を、右神山より裏書により取得したが、満期に右手形を支払場所に呈示して支払を拒絶されたので、原告は右手形の所持人として被告会社に対して右手形金及びこれに対する利息金の支払を求めると主張した。被告はこれに対し、原告主張の約束手形は訴外門松順二が被告会社の印及び記名判等を盗用して作成した偽造手形であるから、被告会社にその支払義務はないと主張した。

理由

証拠を綜合すれば、本件約束手形が作成された事情は次のとおりであることが認められる。すなわち、被告宮本硝子株式会社は訴外株式会社メトロポリタンエイジェンシーから自家用自動車ヒルマン五十七年型一台を訴外門松順二の仲介によつて購入し、その代金支払のため数通の約束手形を振り出したところ、そのうちの一通である金額八万余円のものについて右訴外会社から金額の計算に誤があるから書替えてほしい旨連絡があつたので、被告会社は社員宮本直に所要の会社の記名判及び印判等をもたせて仲介人である右門松の事務所に赴かせ、同所において右宮本は訴外会社に対し金額六万余円の被告会社振出の約束手形を作成して訴外会社の社員村田に交付した。宮本は同所で村田がさきの八万余円の手形を持つて来るのを待つていたが、昼頃となつたので、被告会社の記名判印判等をビニールの袋に入れたまま右門松の事務所に置いて食事に出掛けたところ、その間に右門松が被告会社の承諾はもとより宮本の承諾も得ずにひそかに前記会社の記名判や印判を使用して勝手に被告会社振出名義の本件約束手形を作成したものであるという次第である。尤も右宮本直の証言によれば、宮本はその後門松が勝手に右のように手形を作成したことを知りながら直ちに被告会社に報告せず、門松をしてその解決に当らせるよう努力していた事跡がうかがわれるが、それは宮本としては、門松に右のように手形を作成する隙を与えたのは自分の不注意によるものとして、被告会社に知れる前に門松をして解決させようとしたものであることが認められるから、もとより前記認定事実を左右するものではない。

よつて本件手形は偽造手形であり、被告会社においてその責任を負うべきいわれはないから、原告帝都信用金庫の被告に対する手形金請求は失当であるとしてこれを棄却した。

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